バランス・スコアカードは、1992年に米国のハーバード大学のロバート・S・キャプランとコンサルタントのデビッド・P・ノートンの2人による論文により初めてこの世に誕生した。
当時の米国では財務に偏りすぎた短期的な志向の経営が中心であり、経済全体の活力を失いつつありました。
彼らの研究は、このような従来型の短期的財務的業績指標に偏った業績管理の限界を打破すべく広い範囲の企業評価基準を策定し、そこから顧客の満足度や従業員のやる気など評価の難しい無形資産の価値を明確化することを目指しました。
バランス・スコアカードの導入事例としてはサウスウエスト航空やモービル石油などが有名であるが、日本ではリコーや宝酒造などでの事例がある。
バランス・スコアカードは、企業のビジョンと戦略を明確にし、そのビジョンを実現する為の具体的な手順を構築するための戦略経営システムです。
バランス・スコアカードはビジョンと戦略を明確にすることで、財務数値に表される 業績だけではなく、財務以外の経営状況や経営品質から経営を評価し、バランスのとれた業績の評価を行うための手法です。
バランス・スコアカードを導入することで企業ビジョンの実現・目標の達成を目指し、下記の4つの視点
①財務の視点 ②顧客の視点 ③業務プロセスの視点 ④人材と変革の視点
から「短期と長期、内部と外部、財務と非財務、過去と未来、利害関係者間」のバランスのとれた戦略を立てます。
戦略を視覚化するための「戦略マップ」と戦略の実行を管理する「スコアカード」を作成し、Plan(計画)、Do(実行)、Check(進捗管理)、Action(達成度・状況に合わせた見直し)を確実にします。
また、その戦略を重要成功要因→業績評価指標→アクションプランと現場の業務(所属単位や個人単位)まで
反映させることで、従業員は日々の業務がどのように目標達成に影響するのかを意識でき、経営陣は視覚的、
実質的に目標達成までの道のりを管理することができます。
バランス・スコアカードを利用することで戦略の遂行状況を測りながら、企業の組織力・成長力・競争力を強化し
成功へと導くことができます。
1.将来どうなりたいのか、仕事の使命は?
ビジョンと戦略の作成へ 手順①→⑤
①計画損益計算書の作成 |
②ビジョン策定(1) |
③ビジョン策定(2) |
●戦略を導き出すために、自社の企業環境から判断して強み、弱み、チャンス、脅威が何か知っておく 必要がある。
④SWOT分析(外部・内部環境分析) |
強み (Strength) |
機会 (Opportunity) |
弱み (Weakness) |
脅威 (Threat) |
↓
●選択と集中により、4つの視点で戦略を絞り、最重要戦略決定
手順 ⑤→⑦
⑤戦略の作成(クロス分析) |
●戦略マップ作成
手順 ⑥→⑧
⑥視点の決定 |
⑦戦略の決定 |
↓
⑧戦略マップの作成
視点毎の因果関係を視覚化したもの |
↓
2.スコア・カードの作成
手順 ⑨→⑪
⑨重要成功要因(CSF)の設定 戦略を達成するための最重要成功要因を戦略毎に設定 |
⑩業績評価目標(KPI)の設定 戦略の達成度の測定・評価指標 |
↓
⑪目標とアクションプランの作成 戦略目標達成の為の短期の具体的行動計画 アクションプラン→ 5W2H1Gで考えて作成 (Why,When,Where,What,Who,How much,How long,Goal) |
●目標達成度合いの確認の後、ビジョン達成に向かってPDCAを繰り返す。
⑫実績と結果の分析 Plan(計画)→Do(実行)→Check(進捗管理)→Action(達成度・状況に合わせた見直し) |
Ⅱ
1.計画損益計算書の作成
事業計画の策定として損益計算書(P/L)は最も重要な財務諸表の1つであり、ビジョンを数値化したP/L作成は必須事項です。
2.ビジョン策定(企業理念・ビジョンと環境分析)
企業理念とは、企業の使命(ミッション)とでも言うべき企業の存在意義を表す企業活動の原点となる企業の憲法的存在です。かっこよい言葉ではなくとも、本当に心の底から信ずる信念とでも言うべき経営者が偽りの無い自分の言葉で策定するものです。
簡単に作成できない場合は、暫く白紙でも良いのではと思います。
次に戦略の第一歩として、将来に対する企業のあるべき姿を明確にするために、組織の役割と目標を定めたビジョンを作成します。
ビジョンとは、企業理念に沿った中期経営目標でもあり、数年後の企業の「あるべき姿」ともいえます。したがって、数値目標も含まれた具体的表現が求められます。企業理念、企業をとりまく外部環境と内部環境を整理し、それを踏まえて、企業ビジョンを策定します。
これら企業理念やビジョンを常に念頭に置き戦略策定を策定して行きます。
3.ビジョン策定(3C分析)
次に角度を変えて企業ビジョンを見直します。
顧客(Customer)の特徴、自社(Company)の特徴、競合(Competitor)の特徴を整理・分析し、これを踏まえて企業ビジョンを評価・編集します。
この顧客・自社・競合の特徴を分析することをそれぞれの英語の頭文字をとって3C分析といいます。
4.SWOT分析
SWOT分析とは、企業の戦略を導き出すために、企業を取り巻く内部環境から自社の「強み」「弱み」を、外部環境から自社の「機会」「脅威」を客観的に把握する分析手法です。
企業理念・企業ビジョンを念頭に、企業の内部環境分析と外部環境分析に基づいてSWOT分析を行い、自社の「強み」「弱み」「機会」「脅威」を明確に整理します。
5.戦略の作成(クロス分析)
戦略案を立てる根拠とするために、SWOT分析によって導かれた「強み」「弱み」「機会」「脅威」を掛け合わせるクロス分析を行います。
その結果から具体的な戦略案を導き出します。また、その戦略が次に説明する4つの視点の内のどの視点からの戦略かを明確にします。
6.視点の決定
バランス・スコアカードでは「財務・顧客・業務プロセス・人材と変革」の4つの視点で戦略を構築します。これら4つの視点はそれぞれ独立ではなく各指標間の因果関係に基づいて設定することが求められます。
①財務の視点とは
企業が株主や従業員をはじめとする全ての利害関係者の期待に応えることのできる財務数値目標を設定します。具体的な指標としては売上高、利益率、投下資本利益率などになります。利益を中心とした財務目標は、企業にとって、最も重要な視点です。
②顧客の視点とは
目標とする財務数値目標(利益)を確保するために、お客様の立場から企業が何をすべきかを明確にします。
③業務プロセスの視点とは
企業・組織が財務数値目標の実現や顧客満足度の向上を図るためにどのようにして、競合他社よりも優れた業務プロセスを構築するかを考える必要があります。
④人材と変革の視点とは
競合他社よりも優れた業務プロセスを構築し、顧客満足度の向上を図り財務数値目標を実現するためには、それ相応の企業基盤を確立しておかなければなりません。つまり、企業・組織が競争優位を確保するためには、能力開発や人材育成が必要不可欠です。
7. 4つの視点とバランス・・・バランスの意味すること
バランス・スコアカードでは「財務・顧客・業務プロセス・人材と変革」の4つの視点で戦略を構築します。これら4つの視点はそれぞれ独立ではなく、各指標間の因果関係に基づいて設定されることが求められます。そのことにより「短期と長期、内部と外部、財務と非財務、過去と未来、利害関係者間」のバランスが取れた統一的な戦略策定が可能となります。
8.戦略マップの作成
戦略マップとは、現状分析に基づいて作成される企業ビジョンに向かう企業の進むべき道を示したものであるといえます。
戦略マップは、「財務・顧客・業務プロセス・人材と変革」の4つの視点に重要な戦略をカード方式で並べて、因果関係に沿って矢印でつなぎます。戦略マップを作成するときには、因果関係が非常に重要です。「人材と変革」の視点から「財務」の視点まで、一連の流れで説明できるようにつくります。
戦略マップを作成するときは、財務の視点→顧客の視点→業務プロセスの視点→人材と変革の視点へと、上から下に作成してゆきます。
このときの上下の関係はHow to
do?と自問自答して明確に説明できれば各4視点間の因果関係(目的と手段)が成立している。例えば上記図の場合は財務の視点“売上増加”に対してHow to do?(どのようにして)と質問された場合は下の顧客の視点から“少量多品種での受注可能化“で売上増加が可能となると説明がつく、以下人材と変革まで同じ様に確認して行く。
そして、作成した戦略マップを使って戦略全体を説明するときには、逆に視点の下から上に向かって説明します。
このときは下と上の視点の関係はWhy(なぜ?)に対してBecause(なぜなら~)で結ばれます。上の図の例では人材と変革の視点“採用教育をマニュアル化する”に対してWhy(なぜ)との質問に対してBecause(なぜなら)原価管理を徹底するためと説明がつく、以下同様上の視点へ向かって説明がつけば上下の視点の因果関係が成立していることと言える。
9. 重要成功要因(CSF)の設定
ここからはスコアカードの作成です。
重要成功要因の設定とは、企業の目標(ビジョン)や戦略を達成するために、
何が必要であるかを明確にすることです。
戦略マップで、企業ビジョンに向かう全体の戦略の流れが完成しました。
次は、戦略マップに記載されている個別の戦略を実行するためには、
どのようにすればよいのかを考えることになります。つまり、戦略を実行するためには何をすればよいのかを深堀りしていくことになります。
成功要因を10個程度列挙して、そのうちの1~2個を選ぶというのが
理想的であるといわれています。
10. 業績評価指標(KPI)の設定
業績評価指標とは、戦略及び重要成功要因がどれぐらい実行されているのかを管理するための定量的な指標を定めるためのものです。
バランス・スコアカードのよいところは、従来、定性的な評価が中心となり実行の管理が曖昧になっていた戦略および重要成功要因について、業績評価指標を定め、定量的に評価することで実行の管理を確実にすることにあります。
原則的には、1つの戦略および重要成功要因に対して1つの業績評価指標を設定します。しかし、1つの指標だけではどうしても実行の管理が正確にできない場合は、複数の業績評価指標を設定することもあります。
11. 目標とアクションプランの作成
戦略マップに基づいて設定された「戦略目標」と「重要性成功要因」について定められた「業績評価指標」毎に、「数値目標」と「アクションプラン」を設定します。数値目標とは、経営計画と整合性を持ち、予算を反映させて上位視点の目標を達成するための目標値をいいます。また、この数値目標を
確実に実現するための具体的行動計画を「アクションプラン」といいます。
12. 実績と結果の分析
毎月、作成したスコアカードを活用して、目標とアクションプランに対する実績とコメントを入力してPDCAを繰り返していきます。
Plan(計画)→Do(実行)→Check(進捗管理)→Action(達成度・状況に合わせた見直し)
引用文献:「バランス・スコアカードの創り方」伊藤一彦、上宮克己著
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